3月18日、2018年9月から隅田公園南側で行われていた再整備工事が完了し、その新しい姿が披露されました。
隅田公園のリニューアルは、2020東京オリンピック・パラリンピックを見据え、東京スカイツリーから浅草間の賑わい創出と観光回遊性向上を目的とし、水辺(北十間川)を中心とする鉄道高架下の複合商業施設(「東京ミズマチ」)や親水テラス、コミュニティ道路整備などの一体的な開発を行うまちづくり事業(北十間川・隅田公園観光回遊路整備事業)の一環です。多摩川と街中の一体的なまちづくりを目指す二子玉川にとっても大きな関心であるこのプロジェクト。現地視察に伺うことができましたので、再整備された隅田公園を中心にレポートします。
このプロジェクトは、墨田区と関係者(地元5町会・4商店会、墨田区観光協会、東武鉄道株式会社、東京都)と芝浦工業大学工学部建築学科志村研究室との協働により行われました。2016年1月から約2年間の「北十間川の水辺活用に向けた勉強会」における議論を経て、2018年3月17日に「北十間川水辺活用協議会」が発足。同協議会での地域合意により、墨田区は北十間川河川区域を河川敷地占用許可準則に基づく都市・地域再生等利用区域に指定し、イベント施設や遊歩道、オープンカフェなどの設置を可能にしました。
整備後の利活用・管理運営に向けて継続的に検討が進められ、2019年度に公表された「北十間川周辺の公共空間の活用方針」では、公共空間活用のテーマを「水と緑のサードプレイス」とし、自宅(ファーストプレイス)・職場(セカンドプレイス)とは異なる、心地よい「第三の居場所」を意味するサードプレイスという言葉を用いることで、地域への愛着を他者と共有できる居心地のよい場所を目指すという方針が示されています。そのほか「チャンス」「日常風景」「共創」「伝統歴史」「連携」「波及」の6項目を掲げています。
活用方針をまとめた冊子はカラフルで文字・ページは少なめ、エリアで暮らす人々の笑顔が多く掲載された、誰もが手に取りたくなるつくりで、まちの再整備に対する期待感を抱かせます。
今回の隅田公園南側のリニューアルポイントは:
1. イベント等が開催可能な舗装広場(約1,100㎡)
2. 来街者も近隣住民もくつろげる区内最大の芝生広場(約3,000㎡)
3. 男・女・誰でもトイレなどの設置
が挙げられ、ほかに歴史案内板の設置、震災復興整備時の石積みの再利用、復興当時の設えを感じさせる明治天皇御製碑周囲の整備など、公園の歴史性を尊重した整備となっているのも特徴です。(参考資料:隅田公園の一部(南側)再整備工事が完了しました 墨田区公式サイト・プレスリリース)
ところでこの「1.イベント等が開催可能な舗装広場」は、公募によって愛称「そよ風ひろば」と名付けられています。約2か月間の応募期間で、区内外から約400件の応募があったそうです。風の通る水辺に面したエリアで再整備によってさらに風通しのよい場所に、という思いが込められているそうです。 (参考資料:区立隅田公園(向島1-3)の新たに生まれる「広場」の愛称を募集します 墨田区公式サイト)
私たちがこの「そよ風ひろば」を訪れた際には、小雨降るなかの一隅で「そよ風会議室」が開設されていました。これは、「 “withコロナ”の考えを念頭においた隅田公園などの公共空間の新たな使い方の可能性を探る」社会実験なのです。
同エリアでは、7月末開幕予定だった東京オリンピックを見据えたさまざまなイベントや賑わいが延期あるいは中止となるという厳しい状況に直面しつつも、長期間の外出自粛によって「自分の家の庭のように憩いの場として公園を利活用している」姿が見られるようになったそうです。そこで、墨田区の職員が「これこそが我々が整備の目標としていた『日常風景』ではないか」との思いを新たに、この屋外空間を会議室として利用する企画を始めました。
80 ㎡の「そよ風ひろば」では、テント・机・椅子・PCなどを持参し、最大10人が会議を行うことができます(参照:社会実験!隅田公園で「そよ風会議室」がスタート プレスリリース 墨田区公式サイト)。社会実験の目的として、下記の2点があげられています:
withコロナをチャンスと捉え、(1)新たな公共空間の使い方の可能性を探ること、(2)行政職員自らが公共空間を利活用することで地域や民間事業者へ利活用のしやすさをPRすることで様々な主体による利活用の促進を図る
このプレスリリースには、所属・立場は違えど、「まちづくり」に現場で関わるすべての人の心を打つメッセージが書かれています:
行政職員が自ら実施する「そよ風会議室」(社会実験)を期間限定で開設する。課題は山積であるが、“まずやってみる” “やりながら考える”をモットーに実施していく。
実際、私たちの雨天下アポ無し突撃も快く受け入れてくださり、丁寧にお話をしていただきました。当日現場にいらっしゃった3人の墨田区職員の皆さま(写真参照)も、この公式サイトに掲載された言葉の温度感そのままに、非常に熱かった!
「行政職員自らの行動が、そのほかの職員や地域の方々の公共空間とは何かを考え直すキッカケとなり、コロナにより失われた豊かな日常風景をどう取り戻すかをみんなで考えていきたい。それが日常の風景になり、やがてラボ(Labo)のような形になっていくことを目指したい」
公共空間とは何か?自らが活用し実践する背中を見てもらって、考えてもらえればいい…そんな言葉を自治体職員の方の口から聞いたのは初めてでした。感動を通り越して、私たちの心の中に「火」が灯ったように感じました。
その後、浮貝さんには、園内整備において施したさまざまな「チャレンジ」についてもご説明をいただきました。
遊具や噴水などのいわゆる「公園施設」がない、広場を中心とした整備。単なる広場ではなく、使い方の想像を形にする「可能性の広がる整備」。多機能で変幻自在な仕掛けがそこここになされていて、こんな細部にまで!と感心しました。
常に「何か面白いことが起こりそうな予感(ワクワクする感じ)」を大切にしている感じです。
案内後に浮貝さんが私たちに伝えてくださった言葉です。設計の目線が、利用者としての「自分事」であるからこそ、フラットで親しみやすく、また、使い方のイマジネーションがさらに広がっていくのだろうと思いました。
多摩川の水辺をフィールドの一つとしている二子玉川のまちづくりの視点から、「公共トイレの多機能性」について、特に大きな学びと気づきを得ました。電源や給排水など限定的なインフラ環境のもと、設置場所の制限も厳しい河川敷のトイレを、利用者にとっていかに安全で安心でかつ、清潔な場として整備できるか。さらに、洪水・増水等の発生に備えた移動可能なものでなくては…。
そういった課題に対して、ああでもないこうでもないとアイデアを出し合いながら、隅田川から多摩川へ、我々のホーム・二子玉川へ戻りました。「大人の遠足」などと言い合っていましたが、スタッフ皆で現場の風に触れてその気づきをその場で共有することはとても大切。出張ほど遠くない遠足、絶賛おススメします!
(事務局 小林直子)
参考:
KITAJUKKENGAWA_PRESS_Vol.1(タブロイド紙)(PDF:4,054KB)