【二子玉川かわのまちアクションレポート#3】多摩川河川敷「オギの海復活大作戦」調査報告

 一般社団法人二子玉川エリアマネジメンツは2019年11月、 公益財団法人日野自動車グリーンファンドの2018年度助成を受けて多摩川河川敷 「オギの海復活大作戦」を実施しました。この助成は、当法人の公益還元活動である「かわのまちアクション」の自然環境保全分野に対して認定をいただいたものです。

 NPO法人せたがや水辺デザインネットワークとの共同プロジェクトとして始動し、二子玉川の良好かつ多様な自然環境を残す多摩川河川敷の環境維持・再生を目的とし、その基礎調査を継続的に行い、調査結果を地域へ広く伝えます。今回はその第1回となります。ぜひ、お読みいただき、ご関心をいただければ幸いです。※レポートの詳細(全編)についてはpdf版をダウンロードしてお読みいただけます。

 過去の二子玉川かわのまちアクションのレポートはこちら↓

【二子玉川かわのまちアクションレポート#1】多摩川河川敷現地状況について

【二子玉川かわのまちアクションレポート#2】 多摩川河川敷における野川階段護岸の除草・清掃報告

二子玉川・多摩川河川敷「オギの海復活大作戦」報告書

 二子玉川周辺の多摩川河川敷には、オギ、ヨシ(アシ)などの湿性高茎植物が大きな群落を形成しているエリアがあります。このオギ・ヨシ群落はオオヨシキリ、ヨシキリ、カヤネズミなどの生息の場、ツバメの越冬前の集団生息地として利用され、世田谷区内でも自然度が高く、良好かつ多様な自然環境を残しているエリアとなっています。

 花期の晩秋には、河辺一面に花穂がそよぎ、その景色を「オギの海」と称して地域に愛される風景となっています。また、毎年1月には当該地で採取したオギ、ヨシの枯れ草を刈り取り、地域のお祭り、「二子玉川どんど焼き」の材料として利用されてきました。

二子玉川のどんど焼き。モウソウチクなどでくみ上げられた櫓に、多摩川のオギ・ヨシなどの「萱」を積み上げてつくる。

 しかし近年、オギ・ヨシの群落にヒメムカシヨモギなどの高茎草本類のほか、アレチハナガサ、アレチウリ、ハルシャギク、オオブタクサなどの外来植物が進入し、群落の種構成が変化するとともに、オギ・ヨシの被度・群度も減少し、さらに草体の矮小化も見られるようになりました。

1989年から地元町会「鎌田南睦会」が実施しており、この地域の新年の風物詩となっている。参加者も年々増加している。

 群落の劣化は、土壌水分の減少(地下水面の低下)、土壌成分の変化、群落更新(出水による更新)頻度の減少など様々な要因が推察されるものの、その原因解明は行われていません。このため、オギ・ヨシ群落の劣化の原因となっている環境要因を調査し、その改善を図るとともに、地域住民、企業などと連携してオギ・ヨシ群落の再生・復元を目指すプロジェクト、「オギの海 復活大作戦」を計画することとしました。

 ところが、2019年10月の台風19号の豪雨により多摩川が増水し、堤内地への溢水、多摩川河川敷の氾濫が発生しました。とくに河川公園・運動場として利用されていた多摩川河川敷(テラス面)の被害は甚大で、現状でも氾濫時の土砂が堆積し、大量の流木が残存したままとなっています。またオギの海は水流によって損壊したり、埋没するなど出水前の状況を確認できないほどの状況となっています。

 そこで群落再生の計画を一部変更し、下記の状況把握によりオギ・ヨシ群落の再生に向けた基礎調査を継続して実施することとしました。

①出水後の現状(群落の状況・地形・土壌構成材など)の把握(2019.11現在)

②定期的(季節毎または環境要因の変化時など)な群落分布状況の把握と記録(2020年度)

③群落の植物の種構成の把握(2020年度)

④回復・再生の具体的な活動(概ね2021年度以降)

【実施プロセス】

 オギの海復活大作戦の実行プロセスは下図のとおりです。調査計画の立案、調査の実施にあたっては専門家にヒアリングするとともに、河川管理機関、行政とも連携を確保しながら進めることとします。

【計画区域の設定】

 調査実施エリアは下記のエリアとします。

 ただし、次年度以降の夏緑期の群落の分布状況によっては再調整する可能性があります。

画像出典:https://www.google.com/mapsより加工

【本年度の調査結果の報告】

 実施プロセスに従い、本年度の調査内容(本年度実施対象とした項目)を以下に報告します。

 なお、UAV(ドローン)による画像撮影は、2019.11.28及び2019.11.29に実施しました。

①計画区域の設定

 現状把握のため、下記のエリアをUAV(ドローン)による調査エリアとして設定しました。

 なお、今後の植物群落の形成状況により、次年度以降のエリアは適宜調整・変更することとしました。

画像出典:https://www.google.com/mapsより加工

②オギの海の現状把握(UAV撮影)

 オギ及びヨシ群落、そのほかの植物群落を空中写真で把握するため、UAV(搭載カメラも含める)を購入しました。機体の選定については、下記の要件に適合する機体としました。

◯操作が容易で飛行時の安全性が高い機体。多目的に使用できる汎用性のある機体。

◯今後GIS(地理情報システム)を用いて地図化することから、オルソ画像を生成するために必要な広範囲の撮影(高高度での撮影)が可能な機体。

◯連続して群落分布を撮影するため、精度の高い位置情報GNSSが得られる機体

◯俯瞰での撮影が可能なカメラを搭載した機体

◯安定した画像・映像を撮影するために、3軸カメラジンバルを搭載した機体

◯飛行性能が安定した、比較的長時間の飛行が可能な機体

◯植物群落の範読、解析に堪えられる画像解像度を有したカメラ搭載機

◯コントローラー(送信機)でリアルタイムに撮影画像が確認できるシステム搭載機

◯航空局への飛行申請時に、実績のある機種として申請が容易な機体

これらの要件から、次のUAVをオギの海復活大作戦で使用する機体として選定しました。

■DJI Mavic air

画像出典:https://www.dji.com/jp/mavic-air?site=brandsite&from=landing_page
画像出典:https://www.dji.com/jp/mavic-air?site=brandsite&from=landing_page

■Mavic airで撮影した二子玉川周辺の多摩川河川敷の状況 (2019.11.28撮影)

高度7mから多摩川流下方向を撮影。調査対象地の全容を上空から捉えることができる
大量に堆積した砂礫を撮影。アカメヤナギの流木の状況も明確に確認できる
調査対象地の状況。オギ群落がなぎ倒されている様子、植物種の判読も可能

③調査結果の報告(概略)

 上(1枚目)の画像は台風19号発生前の空中写真画像。下(2枚目)の画像は2019.11.28にUAVで撮影した空中写真画像です。

台風19号の影響前
台風19号の影響後(2019.11.28撮影)

 この2枚の空中写真画像から、多摩川の高水敷の状況が大きく変化したことがわかります。

台風19号の影響後の画像は、11月撮影のため、葉はなく枯れていますが、群落の半分程度は多量の土砂が堆積し、埋没しています。

 また、上画像の左下に位置する樹木(こんもりしている部分)は、オオシマザクラとエノキの単木ですが、水流によってサクラは一部が倒され、エノキの数本は流出しています。

④今後の計画立案

 今回の調査では、台風の影響により流出・埋没したオギ・ヨシ群落の現状把握を行いました。

 その結果、草体が横倒しや埋没したものの、地下茎は残存しており、来春以降群落の再形成が期待できることがわかりました。今後は、地域の住民・市民団体とともに、自然資産「オギの海」の再生・復活の過程、遷移をモニタリングし、さらに再生を早期に実現するための活動(植栽・移植・外来種の除去など)を実施していきたいと考えています。実施プロセスの流れに沿って今後の計画の概要を以下に示します。

◯植生回復(変遷)のプロセスの記録(ドローン撮影:空中写真)

 植物の回復、再生の状況を定期的に撮影し、その季節変化、経年変化をUAVで撮影し、記録します。撮影された画像は、写真上の像の位置ズレをなくし地図と同じく、真上から見たような傾きのない、正しい大きさと位置に表示される画像に変換(正射変換)したオルソ画像を作成します。さらにこれらの画像は、GIS(地理情報システム)で一元的に管理し、植生分布図、地表構造などを作成し、環境情報の見える化を図ります。

◯住民参加型の植物相調査・外来植物調査

 UAV撮影後は、現地の状況を確認する調査を実施します。この調査では、モバイルアプリを用いた調査を予定しています。このアプリは参加者がスマホ操作で植物・植物群落の位置情報と植物写真を撮影することによって自動的に植物情報を記録できるものです。既に二子玉川では、東京都市大学と合同で市民科学「外来植物水辺の植物調査」で使用しているものです。

 多くの人に参加してもらうことによって、多摩川の自然環境、河川環境の保全に興味を持ってもらうことを狙いとしています。

◯植生・保全生態学専門家へのヒアリング

 河川敷の植物の回復・再生には、様々な環境要素が大きく影響してきます。空中写真撮影・現地調査で現状把握を進めながら、出現種、群落構成種、植生の変遷の状況を専門家にも伝え、その後の再生計画に向けて必要となる情報の取得、調査方針などについてヒアリングしながら計画を進めていきます。

◯世田谷区・河川管理者への報告・今後の計画について協力要請

 当該地域を管理する関東地方整備局京浜河川事務所の担当者、世田谷区みどり33推進担当部などへも調査の結果を報告するとともに、群落再生に向けて河川行政との連携、調査の協力などを要請していきたいと考えています。

◯住民参加型群落再生計画スケジュール作成

 現状把握のプロセスが概ね完了し、群落再生の手法など検討を重ねたのち、住民参加型の再生手法・必要な手続き、段取りなどを検討し、群落の回復・再生が計画的に実行できるようにスケジュールを作成します。

◯復活実行のための運営資金調達計画の立案・協力体制の調整

 回復・再生計画に必要な資金(必要機材・必要経費・保険・謝金など)について算出し、調達の方法、助成金運用などの手立てを検討します。

◯住民参加型再生実行

 上記のとおり、現状把握から資金調達までは現地の植生の回復状況を見ながらの計画であり、具体的に住民が参加した「オギの海復活大作戦」を実行する時期については未定ですが、概ね2021年春以降(1年間の現地調査を想定)、オギ・ヨシの苗の採取・植栽、外来植物の駆除、群落更新のための刈り取りなどの作業を実行したいと考えています。

【その他報告事項】

 今回のUAV撮影に際しては、下記のとおり国土交通省東京航空局にUAVの飛行及び撮影許可を申請し許可書を受領して撮影しています。

■無人飛行機の飛行に係る許可書

許可書番号:東空運第9984号

許可事項:航空法第132条第2号

許可の期間:令和元年10月25日~令和元年11月30日

飛行の経路:東京都世田谷区鎌田一・三丁目及び玉川三丁目地先の多摩川河川敷

■使用したアプリケーション

UAVコントローラー:DJI GO4 ver4.3.29

GIS(地理情報システム):ArcGIS10.6.3

画像加工:Adobe Photoshop CS6

平坦な砂地から離陸(2019.11.29)
スマホアプリで状態をチェック(2019.11.29)
今回の撮影範囲全景(2019.11.29)
低高度で地表面の詳細を記録(2019.11.28)

(報告書作成日 2019年12月5日)

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